株式会社FFGベンチャービジネスパートナーズ
野村秀一さん(仮名・ベンチャーキャピタリスト) 36歳
アーリーステージ投資の最前線。九州から世界を見据えるキャピタリストの今。
シンガポールを拠点にPEファンドで活躍していた野村さんだが、祖父の死や家族の介護をきっかけに、生活の拠点を日本に移したいという想いが強くなっていったという。
そして九州へのUターン転職を模索する中で出会ったのが、九州を代表するベンチャーキャピタル「FFGベンチャービジネスパートナーズ(FVP)」だった。
地域密着の投資活動とグローバルな視点を併せ持つFVPは、野村さんがこれまで培ってきたPE・金融領域での経験を存分に活かせる場だったといい、「ここで挑戦したい」という直感を信じて行動を起こす。
現在は福岡で新しいキャリアと生活の基盤を築くことに成功した野村さんに、キャピタリストとしての挑戦について伺った。
※本記事の内容は、2025年9月取材時点の情報に基づき構成しています。
- 過去の
転職回数 - 3回
- 活動期間
- エントリーから内定まで63日間
転職前
- 業種
- PEファンド
- 職種
- 投資業務担当
- 業務内容
- ベトナムおよび日本の投資先企業に対するバリューアップ支援、ファンドの運営業務全般
転職後
- 業種
- ベンチャーキャピタル
- 職種
- ベンチャーキャピタリスト
- 業務内容
- アーリーステージのスタートアップへの投資業務
グローバルなキャリアを存分に活かせる福岡発スタートアップ支援。
現在のお仕事はどんな内容ですか?
FFGベンチャービジネスパートナーズ(以下「FVP」)に入社して約2年、主にアーリーステージのスタートアップに向けた投資業務に一貫して携わっています。
FVPならではの特徴としては、福岡・九州のスタートアップの皆さまと非常に近い距離感で関われることが挙げられます。加えて、海外のスタートアップやVC含む支援者との連携機会も増加しています。
地理的に東アジアや東南アジアに近いという福岡の強みを活かし、海外スタートアップに九州の魅力を知ってもらうと同時に、私たち自身が直接投資の可能性を検討する取り組みも進めています。
前職はシンガポール拠点の日系PE(プライベート・エクイティ)ファンドで、そこで築いたネットワークは今でも活用しています。
また、FVPではベンチャーキャピタルに投資する「ファンド・オブ・ファンズ」も手がけており、新たなネットワークの拡大と直接投資の機会創出の両面で相乗効果を感じています。
入社前のご経歴を教えてください。
大学卒業後、公認会計士試験に合格して監査法人でのキャリアをスタートしました。同法人では、金融商品取引法や会社法に基づく監査業務を中心に10社以上の監査に従事しました。
その後、M&Aアドバイザリー企業へ転職し、さまざまな業種の財務デューデリジェンス、企業価値評価、M&Aアドバイザリー業務などを経験しました。さらに、メガバンクのシンガポール拠点では、ASEAN諸国やインドにおけるお客さまの海外事業戦略に関するアドバイザリー業務を担当しました。
前職にあたるシンガポールのPEファンドでは、日本のスタートアップへの投資実行に加え、ベトナムおよび日本の投資先企業に対するバリューアップ支援や、ファンドの運営業務全般にも携わっていました。
転職のきっかけは?
一番の理由は、2023年の冬に熊本に住む祖父が亡くなったことです。コロナ禍の影響で約3年間帰国できず、元気な祖父の姿を最後に見られなかったことが、ずっと心残りでした。
その後、母が祖母の介護に直面する中で、「自分が日本にいればもっと支えられるのではないか」という想いが強くなり、日本への帰国と転職を真剣に考えるようになりました。
同時にキャリア面でも転機を感じていました。前職のシンガポールでは、比較的事業が成熟した企業を対象としたグロースエクイティやレイターステージの投資を担当していましたが、当時の東南アジア市場は厳しい局面に差し掛かっており、M&Aによるイグジット(投資回収)にも逆風が吹いていました。
この先5年、10年というスパンでキャリアを考えたときに、漠然とした不安を抱くようになったのです。一方で、日本のスタートアップを見ていく中で、改めて「日本というマーケットは面白い」と感じるようになりました。
スタートアップエコシステムの成熟とともに、これからも多くの優れた成長企業が生まれてくるはずです。その中で、自らの成長のフィールドを東南アジアに置くべきか、日本に置くべきかと自問を重ねた結果、「日本で新たな挑戦をしたい」という気持ちが徐々に明確になっていきました。
転職活動はどのように進めましたか?
「福岡・九州で、きちんと投資事業を行っている会社」という軸で探し始めました。最初は地元である熊本も検討したのですが、希望に合致する投資会社で、かつ採用を行っている企業を見つけるのは非常に難しい状況でした。
他の転職サイトにも登録しましたが、紹介されるのは選択肢に入れていなかった東京の案件ばかり。もし九州へのUターンが実現しなければ、シンガポールに留まることも家族と相談していたので、「良い出会いがあればラッキー」くらいの気持ちで、かなり限定的な活動だったと思います。
そんな中、リージョナルキャリア福岡のWebサイトでFVPの大田さん(仮名)のインタビュー記事を見つけ、「この会社で働いてみたい」と強く惹かれました。
ちょうど帰国の予定があったため帰国後に問い合わせを行い、コンサルタントの瀬川さんにご対応いただきました。
今の会社に決めたポイントは?
まず、FVPがファンドの規模・実績・人員体制など、あらゆる面で九州を代表するベンチャーキャピタルであることが大きな魅力でした。最終的な決め手となったのは、大田さんをはじめとする外部から転職してきた方々が、組織の中で長く活躍しているという事実です。
私自身、以前メガバンクに在籍していた経験から、いわゆるプロパー社員と中途入社社員との間に、ある種の見えない壁を感じることもありました。そうした背景もあり、多様な人材が受け入れられている組織風土に大きな魅力を感じました。
チームで支え合う文化とFFGの組織力。転職して見えたFVPの本当の強み。
転職していかがですか?
入社後の1年間は、それまでの経験との違いに戸惑うことが多く、自分の考え方や仕事の進め方を大きく変える必要がありました。
特に、PEファンドにおけるレイターステージ投資と、VCにおけるアーリーステージ投資とでは、デューデリジェンスで重視すべきポイントが大きく異なります。
不確実性の高い事業に対して、どのようにリスクを評価すべきか。最初の頃はまさに手探りの状態でした。
起業家の資質といった言語化しづらい要素や、市場の未来を読み取りながら自分なりに確信を持って投資判断を下すことの難しさを痛感し、その本質を理解するまでには多くの時間を要しました。
それでも、FVPに入社して本当に良かったと感じているのは、チームのサポートが非常に手厚いことです。
入社のきっかけにもなった先輩(大田さん)が、入社後1年近くにわたり伴走してくれて、私がキャピタリストとして独り立ちできるよう親身に支えてくれました。このチームとしての支援体制と文化こそが、FVPの大きな魅力だと実感しています。
転職して良かったと思うことは?
ファンドの出資者が福岡銀行という単一のLP(リミテッド・パートナー)であるという点です。
前職では、投資案件ごとに複数の投資家から資金を集める必要があったため、特にマーケットが冷え込んでいる時期には、資金調達に非常に苦労しました。これは、日本国内の独立系ベンチャーキャピタルでも共通の課題だと聞いています。
そうした中で、福岡銀行という強力なパートナーが継続的かつ安定的にファンドを支えてくれる環境は、キャピタリストとして投資活動に集中できるという意味でも、この上なく心強いと実感しています。
困っていることや課題はありますか?
この2年間で、資金調達環境やイグジットの前提となる上場基準などが、想像以上に大きく変化していると感じています。
入社当初は、VUCAの4要素を踏まえつつ5年・10年先のイグジットを見据えた投資仮説を描いていましたが、それだけでは不十分だと痛感しています。
今求められているのはより長期的な視点で、予測不能で混沌とした中にあっても20年、30年後にどのような社会が形成され、その中でどのようなスタートアップが成長しているかを描ける想像力です。
環境の変化に適応しながらも、持続的に価値を発揮し続けられる企業を見出す「眼」を養うこと。これが今の私にとって、最も大きな課題だと感じています。
生活面の変化はありましたか?
福岡に移り住んでから、生活の質(QOL)は格段に向上したと実感しています。シンガポールも子育てのしやすい環境ではありましたが、福岡にはまた異なる魅力があります。
特に、スポーツが非常に盛んで、子どもたちはラグビーや、オリンピック種目にもなったブレイキンなど、さまざまなスポーツに挑戦しています。指導者の層も厚く、日本のスポーツ環境の充実ぶりを日々実感しています。
そして何より、転職のきっかけにもなった熊本の実家との距離が近くなったことが大きな変化です。
新幹線なら30分強、車でも気軽に帰省できるようになり、シンガポールにいた頃には得られなかった「いつでも帰れる」という安心感が生まれました。
コロナ禍のような不測の事態を経験したからこそ、家族の近くにいられることの価値を改めて強く感じています。おかげさまで家族も皆、今の生活を心から喜んでくれています。
転職を考えている人にアドバイスをお願いします。
これまで私は複数回の転職を経験してきましたが、キャリアが最初からきれいな一本の線でつながっていたわけではありません。むしろ、点と点が後からつながって、少しずつ形になっていくような感覚です。
そのためすべての経験が今の自分の成長と業務に確実に活きていると断言できます。
ですから、転職を考えている方には、リスクとリターンを慎重に見極めることはもちろん大切ですが、それと同じくらい「感情が突き動かされるかどうか」という感覚も大事にしてほしいと思います。
「なぜか気になる」「やってみたい」「心が動いた」など、そうした直感や想いは後のキャリアにおいて大きな原動力になるはずです。