採用が経営を変えた瞬間 取締役COO 永吉 健一氏

銀行の在り方を一変させる、
次世代の銀行をゼロからつくる。

ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社|みんなの銀行設立準備株式会社 / 取締役COO 永吉 健一

Vol.7

ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社|みんなの銀行設立準備株式会社
取締役COO 永吉 健一

1972年生まれ。九州大学 法学部卒業後、福岡銀行に入行。 経営企画部門に在籍し、地域金融機関の経営統合に向けた検討初期段階から、2007年のふくおかフィナンシャルグループ、その後のPMI(経営統合)業務に注力。その後10年間、企業ブランド戦略立案や地方創生プロジェクトに関わり、2016年4月には自らが企画し、iBankマーケティングを設立。代表取締役に就任。2019年、ゼロベースで設計するデジタルネイティブバンクの設立プロジェクトをリードし、ゼロバンク・デザインファクトリー株式会社 取締役COO、みんなの銀行設立準備株式会社 取締役COO に就任。“自分ではできない”が、サッカーをこよなく愛する。

更新日:2019年11月27日

前例のない「デジタルネイティブバンク」をゼロから構築。

-みんなの銀行を発想された背景について教えてください。

そのお話をする前に、まずはふくおかフィナンシャルグループ(以下、FFG)、福岡銀行、iBankマーケティング(以下、iBank)についてお話をするのがいいかもしれません。福岡銀行にはたくさんの商品があり、そのラインナップの中からお客様に最適な商品を最適なチャネルで提供しています。一方、iBankが提供する「Wallet+」は、“デジタルネイティブ”と言われる若年層に対して、商品を絞ってシンプルに、かつ身近に金融商品を使ってもらうということをビジネスモデルとしています。銀行のデジタル化の歴史をみると、インターネット黎明期からはじまり、今ではPCで利用するインターネットバンキングに関しては店頭とほぼ同じサービスを提供できるようになりましたが、スマートフォン(以下、スマホ)のような新しいデバイスへの対応には出遅れた感がありました。そこで、シンプルな金融サービスをスマホで利用できるようにしようということで誕生したものがWallet+なのですが、今手掛けている「みんなの銀行」は、そのWallet+を始めたからこそ浮かび上がってきた、「新しい形の銀行が必要なのではないか」という課題感・発想から始動したプロジェクトになります。

というのも、iBankの立場からすると、Wallet+は、「銀行の機能を外部に出してもらって、そこに接続している」という位置付けのサービスとなるのですが、逆に言えば、銀行から新たな機能を出してもらわない限り、iBankのプラットフォーム上で新しい金融サービスを展開することはできないわけです。本来であれば、非金融サービスも含めて新しいサービスを生み出したり、より良いものをつくっていきたいのに、「銀行から機能を外部に出す」という前提に立つと、コストや時間がかかってしまい、思うように進まない。Wallet+をカスタマイズして進化したように見えても、裏側にある銀行の仕組みや機能は従来のままで、実はそこに進化はない、ということが起こってしまうのです。世の中のニーズに合わせて真に新しい金融サービスを提供するには、それを可能にする銀行システムが必要という結論になりました。そこで動き出したのが「みんなの銀行」プロジェクトです。


-「みんなの銀行」は既存のネット銀行とは異なるのでしょうか?

我々がみんなの銀行の設立準備に着手することを発表した際には、メディアで「地銀初のネット銀行」と取り上げられましたが、私たちが目指しているのはこれまでの「ネット銀行」ではありません。ネット銀行はリアル店舗を持たない分、ローコストオペレーションが可能で、金利や手数料でのメリットをお客様に提供することができます。ただ、我々がお客様に提供したいと思っている価値は、金利などのメリットだけにとどまりません。商品・サービスやシステム、そして業務プロセスまで全てをゼロベースで設計・構築することで、これまでにない、全く新しい商品や価値を提供できる銀行の在り方を目指しているのです。具体的なアウトプットはまだお見せできないので残念ですが、我々は自分たちのことを「デジタルネイティブバンク」と銘打っています。グローバル的には「デジタルバンク」という言葉も出始めていますが、これまで日本にあった“ネット銀行”ではなく、「デジタルバンク」という新たな領域を切り拓いていきたいと思っています。

海外に目を向けると、欧米では「チャレンジャーバンク」と呼ばれるプレイヤーが台頭してきています。銀行業のライセンスを持ちながら、ベンチャー的なアプローチでスピーディーに事業を展開している新興勢力です。先日欧州に視察に行ったのですが、ドイツのチャレンジャーバンクである「N26」は、「ものすごくデザインが凝っている」という印象でした。カードは真っ黒だったり、メタル製だったり、まさに若い世代の人たちが「銀行ぽくない。オシャレでかっこいい」と思うような。銀行というのは得てして“おもしろみのない存在”として認識されがちかもしれませんが、銀行が扱うお金というのは日常生活とは切り離せないものです。その銀行を利用すること自体がオシャレだ、とか、利用している自分に満足できる、という感覚は今や利用者に選択される上で非常に重要なファクターだと考えています。我々が目指しているのも、どちらかというとそういう銀行に近いと思っています。

銀行の機能や業務を再定義。変化の先に待つ未来にビジョンを置く。

-新しい銀行の在り方とは、どういったものとお考えでしょうか?

大きなコンセプトは、「従来の枠組みに捉われない、新しい銀行をゼロからつくる」というところにあるのですが、もう少し踏み込んで言うと、銀行自らが銀行を「リ・デザイン」する、「リ・ディファイン(再定義)」する、ということをビジョンに置いています。リ・デザインは文字通り目に見える部分のデザインやUI(ユーザーインターフェース)、操作感やUX(ユーザエクスペリエンス)を再設計し、使いやすくスマートに、シンプルに言えば「カッコよく」していこうというもの。リ・ディファインは、銀行の三大業務(預金、融資、為替)や、その裏側にある三大機能(金融仲介、信用創造、決済)について、デジタルネイティブの方々の想いをデジタルと融合させて再定義していこうというものです。

例えば、預金として預かったお金を融資するという金融仲介機能だけでなく、今やお金に代わる暗号通貨が誕生し、ネット上ではモノのやり取りも盛んですので、これからは法定通貨だけではない違う形の「価値」を仲介する立ち位置でビジネスが生まれてくるかもしれません。また、「信用」というニュアンスを持つクレジット。これは簡単に言えば「どのように稼いでいるか」という信用力と、「どれだけ使えるか」という支払能力から審査をして与信を付けるのですが、今のデジタルな生活の中では、その人がどのような生活をしているのか、どのような行動をしているのかということがデータとして可視化できるようになってきています。そうすると、例えば「お金は持っていないけれど、社会的にとても意義のある発言をしている人」とか、「ユーザーのネットワークを多く持つ人」といったように、その人に対する「信頼」を一つの判断基準にすることができるようになるかもしれません。「クレジット」から「トラスト」への転換と言えるでしょう。決済についても、ふだん“何気なく支払っている”というものから、“こうやって支払いたい”というもの、つまりその人に一番合った決済方法に対しての価値がますます高まっていくことでしょう。こうした変化が始まっている中で、そのスピード感を正確に捉え、また変化した先に何が待っているかというところにビジョンを置いて、チャレンジしているところです。

デジタル化による既存事業の高度化と、新たなビジネス領域開拓による持続的な成長。次の時代に向けた二つのアプローチ。

-これまでの銀行は「待ちの姿勢」というイメージが強いものでした。なぜ福岡銀行はそれを崩そうとしているのでしょうか?

銀行はその長い歴史も含めて、安心と信頼の上に成り立っているので、それほど急激な変化を求められてこなかったという側面があると思います。何かが急変すると、“自分たちの資産は安全に守られているのか”という不安が生まれかねないからです。しかし世の中のスピードは加速度的に早くなっています。例えばAIが人間を超えるのは2045年とも言われています。そのようなパラダイムシフトを迎えている世の中で、銀行はこれまでのように「待ち」でよいのかというと、そうではないと思っています。既存の延長線上で将来のことを考えるという姿勢は取ってきましたが、新しい金融について考えるということは少なかった。それどころか、「GAFA」に代表されるような新しいビジネスを担っている人、世の中を変えていこうとしている人の方が、金融という領域においても、よほど本気で考えているような節すらあります。これでは、将来本当に銀行という存在がなくなるのではないかという強烈な危機感があります。我々は“銀行の外”にiBankをつくり、フィンテックなどに触れる機会を持ったことで、その危機感だけでなく、デジタルという新しい潮流を捉えれば新しいビジネスのフィールドが広がるのではないかという可能性も感じました。資本力だけでは成しえない、新しいことに挑戦しているという自負が、我々にはあります。これを突き詰めて、将来のあるべき姿を描きたいと考えています。

また、FFG・福岡銀行ぐらいの規模になると、システム的な制約や業務の制約、あるいは組織のカルチャーも含めて、一足飛びに変えるというのは大変なことです。将来に向けて、やり遂げなければなりませんが、このデジタル化を進めるのにも「10年くらいはかかるかな」と思っているぐらいです。しかし、何もしなければ、10年経ったときには、少子化でマーケットが縮小していく、あるいは非金融の領域から新たな金融サービスが進出してくることによって、我々の基盤は半分、三分の一と、小さくなっているかもしれない。また、本業のデジタル化による既存事業の高度化だけでビジネスとして持続的に成長できているかというと、それも不透明です。足元の市場のシュリンクや競争の激化等に対しては、デジタル化による本業の高度化と同時に、一足飛びのスピードを重視しながら、ゼロバンク・デザインファクトリーやみんなの銀行によって、新たなビジネス領域を開拓していく。次の時代に向けて、二つのアプローチを同時に進めているのです。


-具体的にどんなことに取り組んでいるのでしょうか?

例えば、ゼロバンク・デザインファクトリーで開発しているバンキングシステムが挙げられます。ゼロバンク・デザインファクトリーでは、最新のテクノロジーを活用することで、従来の銀行システムでは実現できない軽量かつ柔軟な次世代のデジタルバンキングシステムをスクラッチで開発しています。多くの銀行は自前のデータセンターを持ち、リスク回避のために何ヶ所かに分けて運用しているのですが、私たちは、パブリッククラウド上で構築することに挑戦しています。今のクラウドはどこに何があるか目の前で把握できて、管理も一元化しています。また銀行の物理的なサーバーだと、ピークに合わせた容量のサーバーを用意する必要がありますが、それだと構築にも運用・維持にも相当なコストがかかります。今回採用するクラウドサービス・GCP(Google Cloud Platform)は“伸縮自在”な世界で、ピーク時には容量を増やせるし、そうでない時には逆に小さくすることができる。こういう、容量の増減に対応できるところ(スケーラビリティ)がコストに最も影響を与えます。国内の金融業界ではAWS(Amazon)やAzure(Microsoft)を使っているところはあるのですが、GCP(Google)を使っている実績はありません。顧客の大切な資産を預かっている金融業界はリスク回避のために実績を重視する傾向があるため、そういう意味では、GCPに金融機関で実績がないというのはネックとなった部分でした。それに対して我々は、「銀行そのものをゼロからつくる」のです。そこにはまだ顧客はいません。既存のサービスの移植に悩むこともなく、リリースまでにしっかりテストして品質を確保すればよいのです。また、実現したいスケーラビリティに優れるアプリケーション基盤やデータベースがGCPのサービスとして提供されていることも強みですし、従来のシステムで必要な、「何かあったとき、新しいサービスを投下するとき、一旦システムを止めて、対応して、動作確認をして、というメンテナンスの期間」がGCPでは不要で、いわばこちらのスイッチひとつで新商品がリリースできる、という仕組みがあります。どちらにしても初めての試みなので、金融の実績がなくとも、我々の実現したい世界観をサポートしてくれるGCPを選ぶことにしました。

アントレプレナーシップ、ベンチャーマインドを持つ方とともに、「前人未到のチャレンジ」を成し遂げたい。

-求める人物像、採用基準はどんなものでしょうか?

「銀行をつくる」ので、もちろん銀行業界のバックグラウンドを持つ方も求めていますが、それ以上に求めているのは新しい発想を持つ方ですね。基本的にはベンチャー、スタートアップ的な組織なので、そういうマインドを持った方にジョインしていただきたいです。銀行は組織が多層化していて指揮命令系統が上から下へという流れですが、ゼロバンク・デザインファクトリー社やみんなの銀行設立準備社は本当にフラットな形で、一人ひとりが責任をもって物事を考えて遂行していく。そういう働き方をしていますし、今後もそういう働き方を継続的に実現できる組織を作りたいと思っています。自分も起業家の一人だという思いで、サービスや概念を実現したいという方には、チャンスがあふれていると思います。あとは、我々のビジョンに共感してくれる方、そしてビジョンをカタチにしていきたいという志・気概を持った方です。「こうしたい」と思うことは、ぜひカタチにして持ってきてもらいたい。裁量は与えます。それに見合う責任を持って、自分の仕事を完遂していただきたいですね。

今チャレンジしているのは前人未到のことです。普通のネット銀行をつくるならこんなに大変ではありません。これからサービス、システム、業務の全てをゼロからつくっていく。極論すれば、既存の銀行のノウハウはあまり関係がありません。「決してラクではない、むしろすごくキツい。けど、やり遂げたその先にどんな世界が見えるだろう」とメンバーと共有しながらトライしている日々です。銀行や金融に興味が無くても、新しいものをつくりだす、チャレンジするということに気概を感じてくれる方であれば、業種や経歴は問わずにどんどん仲間になっていただきたいです。

いよいよ始まるカウントダウン。ワクワク感は増すばかり。

-入社する方にとって、ベンチャー・スタートアップ企業と比べたときの優位性はどんなところでしょうか?

これまでお話してきたこととは逆説的かもしれませんが、やはりバックグラウンドにFFG・福岡銀行がいる、ということでしょうか。いわゆるベンチャー企業、スタートアップ企業は、ともすれば「風が吹くと飛んでしまう」「大手の競合が参入してくると為すすべがない」「資金繰りが立ち行かなくなる」といったリスクがつきものだと思います。ビジョンに共感できたり、実現したいことがあっても、そういった部分にヒヤヒヤしながら働くというのはなかなかタフなものです。その点においては、我々のメンバーは安心感を持っていると思います。不安なく、新しい金融を模索できる。スピード感を持ってチャレンジするということに集中できますので、同じマインドを持つ方が増えることで、さらに加速度的に強い組織になっていく可能性はあるだろうと思いますね。

また、デジタルの世界なので、場所を福岡に限定する必要もありません。東京勤務も可能にしています。福岡であっても東京であっても、早いスピード感の中で自問自答しながら、アジャイルで進めています。サービスのローンチは2020年度中。あと1年数ヶ月、ヒリヒリしますね(笑) とは言え、「そんなに時間をかけないとできないのか」と言われるほどの世の中のスピード感ですし、私たちが提供しようとしている価値がローンチするときに通用するかも読み切れないところがあります。今取り組んでいること、これから積み上げていくことを考えると、今はもうあまり時間はない。いよいよカウントダウンが始まっている感じです。このフェーズの事業に携われる機会は貴重ではないでしょうか。ぜひいろいろな方と一緒にこのワクワク感を共有したいですね。

編集後記

最近さまざまなところで取り上げられている「みんなの銀行」についてお聞きしました。“ネット銀行”ではなく、「デジタルネイティブバンク」の設立を進めるに至った経緯や、そのシステム構築にクラウドサービスを使う背景など、とても興味深いお話ばかりで、なるほど、自分がイメージしていたネット銀行とは全く別物だと膝を打つ場面が多々ありました。もはや地銀という位置付け、さらには日本という枠にもとらわれない新しい銀行の在り方、金融サービスの構想はお聞きしていて胸が躍る思いでした。サービスのローンチまであと1年数ヶ月(2019年11月時点)、日本の新しい銀行の歴史がここから始まるかもしれません。

文:リージョナルスタイル認定コンサルタント 植田 将嗣

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