コロナ時代の経営戦略-変化に適応し、より強い会社に。
福岡地所株式会社
常務執行役員 小原 千尚
千葉県出身/東京大学経済学部卒
1997年 日本興業銀行(現みずほ銀行)入社
2004年 株式会社福岡リアルティ入社
2015年 福岡地所株式会社 ビル事業部 担当部長就任
2017年 執行役員就任
2020年 常務執行役員就任
※所属や役職、記事内の内容は取材時点のものです。
コロナウイルス拡大による事業環境の変化。
-前回、2019年4月のインタビュー(※)では、学生時代の将来のビジョンや、銀行員を経て福岡地所にジョインされた経緯、入社後のご苦労などについてお伺いしました。
それから2年が経ち、ビジネスを取り巻く環境の変化も大きかったと思いますが、いかがでしょうか。
(※)ページ下部『関連インタビュー』参照
2019年4月といえば、天神ビッグバンの第1号プロジェクトである『天神ビジネスセンター』の工事が始まったばかりの時期でした。現在まで工事は順調に進んでおり、2021年9月には予定通り竣工しそうです。テナントリーシングも鋭意進めているところで、地下2階の飲食店舗はすべて内定しました。1階から上のオフィス部分は19フロアあるのですが、今はラストスパートというところですね。
振り返れば、コロナ禍によって事業環境は大きく変わりました。コロナウイルスの感染拡大を受けてすぐ取り組んだのは、オフィスビルに求められるコロナ対策、感染症対策をどのように徹底するかということです。九州大学病院に相談しながら、病院で使われているものを導入するなどして、換気、非接触、除菌といった対策を講じ、現在では国内最先端の感染症対策ができていると思います。
そういった取り組みによって安心感を届けられたことで「せっかく出社してくれるのなら、より安心して働いてもらいたい」と考える経営者に、当社のオフィスビルを選んでもらえている印象です。
もし今後コロナが収束したとしても、長い目で見ればきっとまた感染症のリスクは出てくると思っています。福岡市が促進する「感染症対応シティ」には賛同していますし、九州大学病院の中にある「グローバル感染症センター」の取り組みは、私たちにもいろいろなヒントを与えてくれています。行政や専門機関とも連携しながら、コロナを含めた感染症、あるいは環境に配慮したクリーンなビルをつくり、街全体、地域全体へと貢献していきたいですね。
事業ポートフォリオを最適化。
私たちの事業はオフィスビル事業、ホテル事業、商業事業が主な事業ですが、コロナ禍によってホテル事業と商業事業は特に影響を受けました。このままでは、「一本足打法」のような格好になると危機感を覚えました。
一本足だと、どうしてもバランスが取れず、ぐらついてしまいます。それが二本、三本と、複数本の足がしっかりしていれば、そう簡単には揺らがないですよね。そういう事業の柱を複数持つような、バランスの取れたポートフォリオ経営を進めることが重要だと感じました。
まったく新しい事業を始めたり、事業を完全に切り出したり、というよりは、適正な資産規模の中で、アセットタイプ(不動産の用途種別)の入れ替えを行うイメージです。住宅事業への注力や、物流施設『ロジシティみなと香椎ノース(写真)』の開業も、そういった考え方にもとづいています。
人と関わる方法は変わっても、関わり方そのものは変わらない。
-小原様ご自身は何か変化がありましたか?
そうですね、「人に対して優しくなった」ということでしょうか(笑)。というのも、リモートやオンラインで人と話をすることが多くなったので、会話のテンポや温度感が合わず、こちらの意図がうまく相手に伝わらなかったり、逆に意図が汲み取れなかったり、ということが増えました。
相手に伝えるときには言葉足らずにならないように気を付けて、それでも伝わらなければ図示するようにしていますし、相手の話もしっかり最後まで聞いて、話しているときの表情や雰囲気にも気を配るようにしています。
もちろん対面の場合も大切ですし、すごく基本的なことではあるのですが、より強く意識するようになったことで、結果として、今まで以上に相手のことを思ったり、相手を許容している自分に気付いたんです。
これは一緒に過ごす時間が増えた家族に対しても同じことが言えます。人と関わる方法は変わりましたが、関わり方そのものは変わらないんだと再認識できたことは、コロナによる思わぬ産物でしたね。
DX推進のキーワードは「トライ&ラーン」と「つなぐこと」。
-コロナ禍で「DX(デジタルトランスフォーメーション)」が加速している側面があると思いますが、御社ではいかがでしょうか。
当社でもDXの重要性は強く感じていて、データドリブンを実践していきたいと考えています。オフィスビルや商業施設など保有する多くの不動産から得られるデータにもとづいて、仮説を立てる。その仮説から実行した結果のデータを、さらに次の仮説に活かす。こうした「トライ&ラーン」をスピーディーに繰り返しながら、会社全体に浸透していくように、いろんなステップを重ねていきたいですね。
もう一つポイントとして、自社本位ではなく、顧客を意識した仮説立て、データ活用が重要だと考えています。私たちデベロッパーがDXによって顧客や街づくりにどのように貢献していけるか。「顧客と空間」「顧客と顧客」「顧客と街」というように、それぞれを「つなぐこと」で効率的に相乗効果を生み出していくことが、私たちにとってのDXなのかもしれません。
創造的に仕事をするための場所、時間、人のつながりを再設計。
-働き方や、価値観の変化はありますか?
かつては「仕事ならオフィス」「生活なら家」という価値観の中にいましたが、現在は仕事と生活がすごく密接になっていますよね。オーバーラップしているとでも言いましょうか、ON・OFFのスイッチがすごく曖昧です。ですから、仕事とうまく距離を取りながら、もっと創造的に仕事ができるような環境を、会社全体で整えていかないといけないと考えています。
例えば私の場合、出社する際は徒歩で会社へ向かうのですが、歩いている間にだんだんとやる気が出て「仕事モード」に切り替わっていくんです(笑)。そして人と直接会って、議論を行うことで、新しい発想が生まれたり、アイデアが膨らんでいくという実感があります。
一方、オンラインの場合は、タスクは粛々と処理されていきますが、議論は弾みづらいな、という印象です。「なるほど!」と膝を打つような、“ひらめきの瞬間”みたいなものが感じにくいんですよね。そういう「なるほど!」を求める人はやはりオフィスに集まってきていますから、在宅勤務が“普通”になっている現状においても、オフィス環境を整えることは非常に重要です。
新興企業で見られるオフィスのように、ブランコを置いたり滑り台を置いたりということまでは考えていませんが(笑)、じっくり何かを考えたり、議論したり、ひらめきが生まれたり、そういう空間があってもいいと思っています。
また空間だけでなく、時間という面でも、デジタル技術を駆使したりオートメーションを進めながら、「何かを生み出すための時間」をしっかり確保できるようにしていきたいですね。「出社と在宅」「対面とオンライン」のように、どちらかの是非を問うのではなく、場所、時間、そして人の関わり方にフォーカスを当てたときに何がベストな方法なのか、その都度判断していく柔軟性がますます重要になっていると感じます。
“ふとした発想”には大きな可能性が秘められている。
-求める人物像にも変化はありますか?
前回のインタビューでは、福岡地所グループ全体としてのグループ経営を推進していることもあって「物事を俯瞰して見ることができる人材」とお話したのですが、現在はそれに加えて、「発想やアイデアを生み出せる人材」「それを発信できる人材」を求めています。
物事を俯瞰して見ながら、ロジカルに事業や実務に落とし込んでいくことはもちろん重要ですが、思いがけないところから生まれる“ふとした発想”にはすごく大きな可能性が秘められていると思います。それはときに奇抜なものだって構いません。「そういえば、アゼルバイジャンでこんなことやってるんだけど、福岡地所で使えないかな?」みたいな(笑)。
DXの取り組みの中でデータドリブンという話をしましたが、人間中心の“アイデアドリブン”も同じぐらい大切にしたいと思っています。もちろん中途採用ですから基礎能力や経験値を含めたこれまでのキャリアは重視しますが、加えて、「独自のものの見方」や「アイデアを発信したりカタチにした経験」がある方には、ぜひ積極的にいろんなポジションをご提示していきたいですね。